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タイの政治的社会的騒乱:切望される早期民主化の定着

 タクシン政権を倒した軍事クーデター(2006年9月)後に登場したスラユット暫定政権は、約束通り2007年12月に総選挙を実施して退陣、民政移管を果たした。本稿では、その後も反政府運動に揺れるタイ政治・社会の状況と見通しを一瞥したい。

司法主導の相次ぐ政権交代
 この総選挙では、タクシン元首相設立のタイ愛国党の流れを汲む国民の力党が480議席中233議席を獲得して第1党になり、2008年2月、サマック元バンコク知事を首班とする6党連立政権が誕生したが、同首相は同年9月に失職した。次いでタクシン元首相義弟のソムチャイ副首相が首相に就いたが、12月には同政権も失脚、今度は、当時の与党の一部が民主党支持に回って、アピシット民主党党首が政権を掌握し、現在に至っている。民政移管後の2月に帰国したタクシン元首相は、夫人が脱税に絡む有罪判決を受けて8月に再度海外に逃亡し、その後、タクシン元首相自身も汚職防止禁止法違反で禁固2年の有罪判決を受け、現在はドバイ、モンテネグロ、ロシア等を転々としながら滞在している模様である。
 この相次ぐ政権交代では司法の役割が注目される。2006年4月の総選挙の無効判決、2007年のタイ愛国党解党命令など、タクシン派に不利な判決が以前から続いたが、サマック首相の失職は、報酬を得てテレビ番組に出ていたことが違憲との憲法裁判所判決による。ソムチャイ政権の崩壊も、総選挙での選挙違反による国民の力党の解党処分にある。

過激化する反政府運動
 2008年5月以降、サマック政権打倒を叫ぶ反タクシン派の民主化市民連合(PAD、黄シャツグループ)の反政府運動が激化、11月にはバンコク国際空港を占拠、閉鎖するなど、ソムチャイ政権崩壊直前まで続いた。
アピシット政権登場後は、タクシン元首相派の反独裁民主戦線(UDD、赤シャツグループ)が反政府運動を展開し、2009年4月、パタヤでのASEAN関連首脳会議場に乱入、日本を含む各国首脳が現地に到着済みの中、会議は延期された。2010年2月の最高裁によるタクシン一族の財産60%の没収判決を契機に、UDDは3月中旬から議会の即時解散を求めてバンコクで大規模集会を開催、4月には治安部隊と衝突。その後、政府の和解案提示や上院議員の仲介努力も不調に終わり、5月19日には治安部隊が突入、UDD幹部はデモ終結を宣言した。一部デモ参加者が暴徒化して放火、略奪を行った。一連の混乱での死者数は報道によれば91人に達した。
赤シャツデモの参加者は、日当をもらった地方の貧困農民層中心といわれるが、一部調査ではバンコクの都市中間層、自営業者も多い。タクシン派の自警組織や元タイ共産党活動家も便乗したようだ。

政治の早期民主化への期待
 タクシン政権は、タイ憲政史上初めての民主的憲法といわれる1997年憲法下で行われた2001年初めの総選挙で安定多数を獲得して誕生した。2005年の第2回総選挙で4分の3の絶対多数を得て、民主政治が定着したかにみえた。しかし、同政権の腐敗とその強引な政治手法を不満とする勢力の反政府運動を背景に混乱、軍事クーデターによって民主主義は頓挫した。民政移管後も、司法判断に起因して一年に3つの政権が誕生した。
 次回総選挙は現下院議員の任期切れの2011年末までに行う必要がある。過去の感情的対立を克服して、民主的な政権交代の定着が切望される。
 ただ、過去の政治的混乱は軍や学生中心の対立であったが、タクシン政権登場から一連の騒乱を経てタイ社会の構造変化は大きく、政財界、官僚、農民、都市中間層など多くの階層を巻き込んだ対立になっている。この状況下での国民的和解の達成は非常に困難を極めよう。アピシット政権がデモ隊に提示した国民和解計画(王室の政治利用自粛、社会経済格差是正、改憲等)は合意に至らなかったが、喫緊の課題である。最近も散発的な爆弾事件が発生、赤シャツの集会が再開されている。
 1973年や92年の流血事件など、かつてはプーミポン国王が政治的混乱の収拾で重要な役割を果たした(いずれも当時の首相が辞任、落着)。
 タクシン政権末期や今回の混乱期にも国王の介入に期待する声が出た。裁判官達の拝謁の場で、「国益を考えて職務に専念せよ」との訓示を垂れ、その後前述の一連の判決が続いた。国王はその人格、識見もあって高い国民的人気を博してきたが、今や82歳の高齢で入院中であり、沈黙が続いている。早晩王位継承が現実のものとなろう。立憲君主制で不敬罪もある明治憲法型の現行制度か、日欧式の象徴的地位か、どうすべきかの議論も出てこよう。
 貧富の格差是正も大きな課題。親族間での相続・贈与税はゼロで、その導入の議論は長年タブー視され、土地所有税も皆無に等しい(1600平米当たり10円弱)。議論を回避せず、早急に取り組む必要があろう。
 タイは日本との600年余りの交流を有する友好国で、皇室・王室の伝統的関係、重要な投資先かつ観光渡航先、文化面の影響を含めて抜群の対日好感度という重要な国であり、政治社会の早期安定が切望される。
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