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IWC(国際捕鯨委員会)の正常化問題

 本年2月、私は米国のピュー財団主催のクジラに関する会合(於リスボン)に招かれて参加しました。私は80年代半ばにIWC年次総会に3年続けて出席、また、90年代初めには地球サミットの準備の一環で反捕鯨派と激しく議論をしました。それ以来久し振りに捕鯨問題に関わることになった訳でしたが、この17年間捕鯨派と反捕鯨派との間の議論は収斂せず、相変わらず不毛の議論の繰り返しとの印象を受けました。
折からIWCでは、長年の異常事態を打開すべく、米国のホガース議長主導の下、昨年のチリ総会で正常化に向けた作業項目が合意され、デソト大使(ペルー)を議長とする小ワーキンググループ(以下SWG)を設置して妥協案を模索していました。2月2日に選択肢付きの議長ペーパーを公表し、3月のローマ会合での検討を経て6月のマデイラ(ポルトガル)でのIWC総会に提出、採択を目指すことになっておりました。
私が参加した会合の目的は、ピュークジラ委員会を設立してIWCの正常化作業を側面支援することにありました。しかしながら、メンバーは私を除いてほぼ反捕鯨国出身者で構成され、財団作成の討議用資料および専門家のプレゼンも反捕鯨の立場で貫かれ、正常化作業にどう貢献し得るか、疑問視されました。日本の調査捕鯨からの早期撤退確保(それと引き換えに厳しい条件下での沿岸捕鯨承認)が主眼で、SWGにおける正常化作業の中身より後退しているとの印象を受けました。
結局、当初目指した合意文書の採択を諦めて、議長総括が発表されることになりました。なお、正常化を主導するホガース議長をブッシュ政権の遺物として足を引っ張り、同議長の交代をバラック政権に働き掛けている米国NGOの動きが背後で看取されました。
恒久的神学論争
 捕鯨を巡る議論がいかに異常なのか。双方の間には埋められない哲学の根本的違いがある、というのが私の従来からの印象であり、ピュークジラ委員会の会合に出て、改めて従来の印象を確認することになりました。会合の雰囲気を含めて代表的論点を以下に紹介したいと思います。
第1に、一方に、クジラの捕獲は悪で、不道徳で一切容認できないと主張する感情論があります。特に日本の調査捕鯨を最大の攻撃対象としており、日本の調査捕鯨は疑似商業捕鯨であって、1982年にIWCで採択されたモラトリアム(一時停止)の抜け穴であるとの非難を繰り返します。他方、捕鯨国側からみて、日本が実施している調査捕鯨は国際捕鯨取締り条約第8条に明記された基本的権利であり、また、ノルウェーの商業捕鯨はモラトリアムに対する「異議申し立て」の下で行っているもので、いずれも条約上の権利として明記されており、何ら違法性はない、ということです。
 第2に、条約の目的は鯨類資源の適切な保存と利用(鯨類産業の秩序ある発展)にあると明記され、日本などは絶滅の危機に瀕する種の捕獲は禁止して資源の回復を図り、資源の豊富な種は利用する、との立場を貫いてきております。この「持続可能な発展、利用」の原則は92年の地球サミット以来の中心テーマであって、今や世界の常識ですが、反捕鯨派にとってクジラだけは適用除外で禁句ということのようです。他の環境問題ではこの「持続可能な開発・利用」原則を大上段に振りかざすブラジルやインドも、捕鯨問題だけは例外のようです。
第3に、82年採択の商業捕鯨モラトリアム決定では、「遅くとも90年までに鯨資源にどのような影響があったかを評価し、新たな捕獲枠の設定を検討する」ことになっております。しかし、反捕鯨派はこの「モラトリアム」(一時停止)を恒久化するべく、捕獲枠設定の前提となる改定管理方式(RMP)の導入と改定管理制度(RMS)の採択に無理難題をふっかけ、その採択を妨害してきています。
 第4に、「国際世論の圧力」に屈しない捕鯨国の対応に苛立つ反捕鯨派は、条約は採択後60年も経た時代遅れの代物で、最近の漁業・環境関連条約に沿って全面的に改正すべきとの論理を展開し、具体的には調査捕鯨や「意義申し立て」制度を撤廃し、更に条約順守の強化、紛争解決制度の導入などを提唱しています。条約改正が不可能な場合も、調査捕鯨の自発的停止ないし放棄、総会の下に設けられている科学委員会の厳しい管理下での実施案などを示唆しています。豪などは条約改正のための外交会議の開催を提唱し、仮に条約改正が駄目でも、条約の「部分的強化」を図る議定書の採択を狙っているようです。日本は、条約はこれまで必要に応じて改善運用されてきており、議定書の交渉は不要であるとの立場を取ってきています。
 第5に、反捕鯨派は社会経済的、文化的・倫理道徳上の側面も重視しているようです。しかし、彼らのいう文化的、道徳的側面とはクジラは可愛い動物で、これを「殺す」ことは絶対に容認できないというものなのです。クジラも漁業資源の一種で、持続可能な利用の対象であり、伝統的食文化であるとする日本の立場と全く相容れないのです。反捕鯨派はまた、捕鯨の経済的合理性はなく、政府の補助金で辛うじて持続しており、補助金を撤廃すれば継続不可能とも指摘しています。捕獲でなく、ホエールウオッチングを大いに奨励すべきとも主張しています。日本からみて捕鯨とホエールウオッチングとは二者択一の問題でなく、両立する話です。現に日本でも、ホエールウオッチングの振興を重視する地域は多く、そこではクジラ料理専門店も沢山あります。
 第6に、過去にインド洋、南氷洋など幾つかの海域が科学的根拠もなくクジラの聖域(サンクチュアリー)と決定され、現在南大西洋の聖域提案が出ています。条約に聖域の提案・決定は科学的根拠に依るとの条件が明記されていても、捕鯨国側に種々の科学的データの提出を厳しく求める反捕鯨派も、聖域提案の科学的根拠は全く曖昧のままで、二律背反も甚だしいといえます。最近では公海全体の聖域論まで言い始めていて、警戒を要する状況です。
 このように、捕鯨問題の世界はNGOを巻き込んだ不合理・不透明な議論が罷り通る場であり、果たしてSWGの作業が成功裏に完結するかは予断を許しません。日本政府には原則を維持しつつ、「ギブ・アンド・テーク」の前提で粘り強く交渉を続けてほしいと思います。
(2009年2月記)
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テーマ : 捕鯨・反捕鯨問題
ジャンル : 政治・経済

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